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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1680号 判決 1961年8月09日

控訴人 高崎弥兵衛 外二名

被控訴人 南元春

主文

原判決をつぎのとおり変更する。

被控訴人に対し、控訴人高崎は金一八〇、〇〇〇円とこれに対する昭和三〇年一二月二〇日から支払ずみまで年六分の割合の金員、控訴人島本、同上嶋は各自金一〇〇、〇〇〇円とこれに対する昭和三〇年一二月二〇日から支払ずみまで年六分の割合の金員を支払え。

被控訴人の控訴人島本、同上嶋に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、一、二審とも控訴人らの負担とする。

この判決は、被控訴人において控訴人高崎に対し金三〇、〇〇〇円、控訴人島本、同上嶋に対し各金二〇、〇〇〇円の担保を供すれば、被控訴人勝訴の部分にかぎりかりに執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする」旨の判決を、被控訴代理人は、「各控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする」旨の判決を求めた。

事実及び証拠の関係は、次に記載するもののほか、原判決の事実摘示をここに引用する。

控訴代理人は、「控訴人らは本件約束手形を振り出したことはない。昭和二九年二月中控訴人高崎は、控訴人島本、同上嶋を連帯保証人として被控訴人より金一〇〇、〇〇〇円を借り受け、同年九月中控訴人高崎単独で被控訴人より金二〇、〇〇〇円借り受け、昭和三〇年一二月一九日訴外山本秀祥が被控訴人から金六〇、〇〇〇円を借り受けるにあたり、控訴人高崎はこれを保証するため右山本と共同で被控訴人にあて右金額の約束手形を振り出したことがある。控訴人らと被控訴人との間の貸借関係はこの三回のみで、被控訴人が主張するように昭和二九年二月二二日に金一八〇、〇〇〇円を借り受けたことはない。そしてこの三回の借受金はいずれも弁済ずみであるから控訴人らは被控訴人に対してなんらの債務も負担していない。」と述べ、被控訴代理人は、「昭和二九年二月二二日控訴人高崎の求めにより同人に金一五〇、〇〇〇円を貸し付けるにさいし、それ以前の貸金三〇、〇〇〇円を合算して金一八〇、〇〇〇円とし、控訴人ら共同振出の本件約束手形の交付を受けたもので、控訴人主張のことき貸金の事実はない」、と述べた。

立証としてあらたに、控訴代理人は、乙四号証を提出し各控訴本人の当審供述を援用し、甲五号証の成立につき原審における陳述を撤回してその成立を認め、被控訴代理人は被控訴本人の当審供述を援用し、乙四号証の成立を認めた。

理由

成立に争のない甲二号証の一ないし四、甲三号証の二、甲四、五号証、鑑定人梶浦由雄の鑑定結果により成立を認める甲三号証の一、証人蟹井亨、被控訴本人(当審)の供述ならびに各控訴本人の当審供述の一部(後記信用しない部分を除く)によれば、

控訴人高崎は、被控訴人から昭和二八年八月頃金三〇、〇〇〇円を借り受けたが、同二九年二月さらに金一五〇、〇〇〇円の金融を申し入れたところ、被控訴人から保証人二名を立てその印鑑証明を持参するよう要求されたので、控訴人島本、同上嶋に保証人となることの承諾を得、その金借に必要な書類作成のため両人から印鑑証明と印鑑を預かり、同月二二日さきの三万円とあわせ額面金一八〇、〇〇〇円とする趣旨で控訴人ら三名の振出人名を記載し、これに右の預かつた島本、上嶋の印鑑を用いて捺印し、その他の手形記載事項は白地のまま本件の約束手形を振り出して被控訴人に交付し、引き換えに金一五〇、〇〇〇円を借り受けた。控訴人島本は控訴人高崎の義弟、同上嶋は高崎の女婿で、いずれも高崎の依頼により保証人となることを承諾したが、保証の形式について高崎との間に格別の話合いはなく、高崎においてそれぞれ預かつた印鑑を使用して、借用証書の作成或いは手形の振出など適宜に行う包括的な権限の委任をしたのであるが、控訴人高崎はその依頼にあたり被控訴人からの借受金額は金一〇〇、〇〇〇円であると告げたため、島本、上嶋は金一〇〇、〇〇〇円の借受について右のような権限を高崎に委任したものであること、

を認めることができ、したがつて甲一号証は控訴人高崎については額面の全額、控訴人島本、同上嶋についてはそれぞれ金一〇〇、〇〇〇円の限度で振出の真正を認めることができ、さらに同号証中成立に争のない符箋部分と被控訴本人の当審供述によれば、被控訴人は昭和三〇年一二月頃本件手形の白地を補充したうえ、支払期日に支払場所に呈示したが拒絶されたことを認めることができる。以上の認定に反する乙一号証及び各控訴本人の一、二審供述部分は、前掲各証拠と比較して採用できず、ほかにこの認定を左右する証拠はなく、また控訴人島本、同上嶋の本件手形振出につき前記認定金額の限度を越える部分の真正を認めるに足りる証拠は見あたらず、この両名が手形額面の全額につき責任を負うなんらかの事由について被控訴人は主張するところがない。

したがつて、控訴人高崎は右約束手形金一八〇、〇〇〇円とこれに対する満期後の昭和三〇年一二月二〇日から支払ずみまで手形法所定年六分の利息を、控訴人島本、同上嶋は、右約束手形金の内各自金一〇〇、〇〇〇円とこれに対する右におなじ利息を、合同して被控訴人に支払う義務があるから、被控訴人の本訴請求はこの限度において正当として認容し、控訴人島本、同上嶋に対するその余の請求は失当として棄却すべきものである。

よつて、これと結論を異にする原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 亀井左取 杉山克彦 下出義明)

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